糖鎖生物学とミッドカイン


糖鎖生物学とミッドカイン

 

エンドグリコシダーゼ

 卵の白身から卵アルブミンを結晶化し、プロテアーゼでズタズタにして、わずかに残っている糖部分、すなわち糖ペプチドを得る。ホラ貝のカラをたたき割って臓物を取り出して、その抽出液を卵アルブミン糖ペプチドに働かせ、遊離してくる糖をペーパークロマトグラフィーで分離する。 これが1964年頃の私の実験だった。当時の東大理科II類では多様なコースを選択できた。医学部へ進んで基礎医学を研究しようとぼんやり思っていたのだが、進学説明会で遺伝情報の話を聞 …続きを読む

エンブリオグリカン

 エンドグリコシダーゼの仕事が一段落すると30代半ばになっていた。細胞表面分子識別の研究を本格的に再開するためにはどうすれば良いだろうか。主任教授の木幡先生に相談すると、一年間、海外へ出かけて良いとおっしゃって下さった。 喜んで、発生の研究をしようと思った。シュペーマンによるオーガーナイザーの研究などの結果、分化誘導のメカニズムが大きな謎として立ち現れていた。題材はテラトカルシノーマの幹細胞(embryonal carcinoma細胞、 …続きを読む

ベイシジンとエンビジン

 LeXやDBAエピトープなど、いくつか分化マーカーとなる糖鎖を担う細胞膜糖タンパク質は実体としてはどのようなものだろうか。糖鎖の機能を識るためにはタンパク質側も理解しなければならないだろう。逆に、糖鎖を切り口として未知のタンパク質に迫ることができるかもしれない。 こう思って小澤さんにはテラトシカルシノーマの糖タンパク質の解析を依頼した。レクチン・アフィニティークロマトグラフィーで、糖タンパク質を分別した後、糖タンパク質をさらに精製しよ …続きを読む

硫酸基の識別

 糖タンパク質やプロテオグリカンの糖鎖の機能も1980年代にはいくつかが解明されていった。決定的であったのはいずれも1989年に発表された2つのことである。 まず、白血球の移動において、最初のゆるやかな接着はセレクチンがリガンドとなる糖鎖を識別することによって起こる。 そして、増殖因子であるFGFはその受容体(膜貫通型チロシンキナーゼ)と共にヘパラン硫酸プロテオグリカンのヘパラン硫酸鎖を識別し、この二重の識別がシグナル受容に必要である。 …続きを読む

ミッドカイン

 1984年、門松健治さんが研究室に参加した。当時、九大小児外科の大学院生であった彼はテラトカルシノーマに興味を持ち、発生関連の研究を希望して、加わったのである。門松さんは小澤さんと共に、分子生物学技術の導入の先頭に立った。 まず、熊本大学の島田和典教授の研究室に出張してメッセンジャーRNAの単離法を習った。つぎはライブラリーの作成法である。こうしてシステムが出来上がってきた。その時、門松さんは「発生に重要な遺伝子を捕まえたいです」と持 …続きを読む